30年以上、26万キロ以上の距離を共に走る愛車をレストアする決断をした伊藤かずえさん。愛車のシーマは1988年に登場し、旧車と呼ばれるほどの年月が経過しています。
まだまだ、クルマの寿命は10年、10万キロというイメージが定着している日本国内で、長く1台のクルマを大切に乗り続けている伊藤さんには、「珍しい」「すごい」といった感想を抱く方も少なくないでしょう。
そこで今回は、シーマはどんなクルマなのか、レストアとはどのようなことをするのかをご紹介していきます。
新車の純正オプション取付やコーティング業をしながら車専門のWebライターとして活動中。車好きで愛車のカスタムが趣味。車は6台目で、乗り換えの際は買取や個人売買を利用。現在は愛車のロードスターを長く綺麗に乗るためのメンテナンスに精を出している。
もくじ
日産が正式に伊藤かずえさんの「シーマ」のレストアを開始
2021年4月26日、伊藤かずえさんが所有する「シーマ」がレストアのために、日産自動車のグループ会社である「オーテックジャパン」に預けられました。
ことの発端は2020年10月の伊藤かずえさんのSNS投稿。シーマの1年点検についての投稿に多くの反響が集まったことがきっかけです。30年以上にわたり、1台の愛車と人生を共にしてきた伊藤さんへの激励コメントがあふれ、感謝の思いとして日産の有志チームによってレストアプロジェクトが発足されました。
→伊藤かずえさんのtwitterはこちら
伊藤さん本人も、「そろそろレストアを視野に」と考えていたところに日産からの提案を受け、実現したものです。
伊藤かずえさんの愛車「シーマ」ってどんなクルマ?
シーマは、日産の「セドリック/グロリア」の上位車種にあたる、高級セダンです。1988年当時の新車価格は300~400万円ほど。
現行のシーマは800~900万円のフラッグシップセダンとなっており、旧型のシーマはVIPスタイルのカスタムベースとして高い人気を誇ります。
伊藤かずえさんのシーマは、初代の「Y31型」と呼ばれるモデルで、30年以上が経過し、走行距離は26万キロを超えています。
1988年発売の初代シーマ「FPY31型」
初代シーマは、セドリック・グロリアの上位車種として1988年8月に発売されました。排気量3,000ccのV6ターボエンジンを搭載し、255psを出力するハイパワーモデルです。
30年以上前のクルマにも関わらず、クルーズコントロールや運転席のパワーシートなど、最新のクルマでも車種によっては装備されない機能が標準装備となっており、やはり最上級セダンだということを改めて認識させられます。
中古車市場での流通台数も減少した希少なオールドカー
「カーセンサー」や「Gooネット」では、簡単に中古車を検索することができます。
しかし、いずれにおいても初代FPY31型のシーマの中古車 は全国に数十台しか流通していない希少車。走行距離の少ない車体や使用感の少ないきれいな車体は200~300万円ほどで販売されています。
「レストア」ってどんなことをするの?
「レストア」は英語の「restore」に由来し、「復元する」「元に戻す」「復活させる」といった意味をあらわします。車やバイクに対しては、年式が古く傷んだ車を走れる状態に戻すこととして使われることが多いです。
レストアはクルマの部品を新品に交換し新車のような状態に戻すこと
すでに不動になっているクルマや、サビや腐食がひどく進んだ車を再生させることをレストアと呼ぶことが主流です。海外ではレストアをテーマとしたドキュメンタリー番組「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」などが人気で、BS放送などで国内でも放送されているので、旧車好きの方や改造車好きの方にはなじみがあるでしょう。
昨今では状態のひどい不動車に限らず、単純に年式が20年以上経過しているクルマの各部品を、新品に交換していきながら乗り続けることをレストアと表現することもあります。今回の伊藤かずえさんのシーマの場合も、実際に走行が可能な状態のクルマを新車に近い状態に戻すという意味でのレストアに該当するでしょう。
内外装のレストアではボディの全塗装やシートの張替えなども行う
レストアでは、クルマの部品を新品に交換して各機能の回復を図るだけでなく、外装を再塗装してピカピカに仕上げたり、シートの張替えやダッシュボードの交換などをして見た目でわかる部分の再生も行います。
「新車のような状態に戻す」ことを目的としているので、クルマとしての機能を維持するための部品交換や修理はもちろん、見た目も美しく再生させていきます。
クルマの内外装は、紫外線によるダメージで色褪せしたり、走行によって小さな傷ができたり、乗り降りでシートが擦れてしまったりとダメージが蓄積しやすいです。しかし、走行に支障がないことから修復は後回しになりがちなので、レストアできれいに蘇らせると見違えたような姿に仕上がります。
エンジン等の「オーバーホール」はレストアとは異なる
新車のような状態に戻す、と聞くと「オーバーホール」をイメージされる方も少なくないでしょう。しかし、オーバーホールはレストアとはまた異なるものとして扱われます。
原則として、レストアは新品の部品に交換することです。オーバーホールは、エンジン等を分解し、中の各部品を洗浄・調整して再度組み上げることを指すので、どちらかというと修理に分類されます。
エンジンやミッション、ブレーキなどの機関で実施できるものであり、内外装には行うことができないのも特徴です。
国産車メーカーではレストアプロジェクトを実施している
今回、日産社内の有志による働きかけで実現した「シーマ」のレストアプロジェクト。トヨタでは販売ディーラーが旧車の再生に取り組むレストアプロジェクトを行っていることがありますが、日産やマツダでは一般ユーザーに対してレストアプロジェクトとして、生産終了した部品の再供給を行っています。
2017年にはマツダ「NA型ロードスター」や、ホンダ「NSX」「ビート」、日産「R32型スカイラインGT-R」など、各社1980~1990年代に人気を博したモデルの部品の再生産を発表し話題となりました。
レストアは新品部品への交換を行うことで新車のような状態に戻していくので、メーカーによる部品の供給が不可欠。クルマは時代を象徴するものの一つになる歴史的財産とも言えるので、レストア対象車種が増えたり、部品供給が延長されたりすれば、旧車ファンにも喜ばれることでしょう。
生産終了から20年ほど経つと新品部品の生産も順次終了するので注意しよう
今、年式が古くなってきたクルマを乗り続けていきたいと考えている方は、レストアやリフレッシュを視野に入れるタイミングを迎えるかもしれません。レストアには多額の費用が掛かるので、動かなくなってから着手するのか、動くうちに少しずつ進めるのかはオーナー次第でしょう。
レストアにかかる費用の総額は、中古車が買えるほどの金額になることも少なくありませんが、もっとも注意ししておかなければならないのが部品の供給です。多くの日本車は、生産終了から20年ほどまでは新品部品を供給しています。しかし、早いメーカーや車種では10年も経たないうちに部品供給を終了してしまうことがあるので、「レストアしたくてもできない」という状況に陥ってしまう可能性もゼロではありません。
今後も、今の車にきれいに乗り続けたいという方は、新品部品があるうちにレストアを始めてみてはいかがでしょうか。
[画像提供]日産自動車株式会社